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執筆者の写真SCGR運営事務局

【#19】2025年世界情勢・経済見通し


MIRAL LAB PALETTE × SCGR企画 SC Kaleidoscopeでの様子


経済部 シニアエコノミスト



年末恒例といえば、そうです、次年の見通しです。弊社も今年の振り返りと見通しである「2025年世界情勢・経済見通し」を発表しました。「来年を見通せるのならば、ここにはいない!」という名言(迷言?)もよく言ったり聞いたりしますが、まず今年の状況を整理することが重要です。

 

今回の見通しでは、いくつかの点から2024年を振り返っています。まず、多くの国・地域で選挙が実施されたことが挙げられます。コロナ禍や歴史的な物価上昇などの荒波に日常生活がさらされてきた中で、現政権には厳しい審判が下った国・地域が多かったようです。また政権を維持できても、議会で過半数の勢力を失うなど、今後の政治運営の難易度が高まっています。

 

例えば、日本も例外ではなく、自公与党は政権を維持したものの、議会では過半数割れです。米国では、トランプ前大統領が返り咲き、上下両院も共和党が優勢となるトリプルレッドになりました。欧州でも、フランスでは与党が少数派に転落、2025年度予算を巡ってバルニエ政権が総辞職するなど、すでに混乱しています。ドイツでもショルツ首相の不信任によって、解散総選挙となりました。そのほかの国でも与党の単独過半数割れや政変など、大きな変動が見られました。政治が緊張感を持った中、今まで以上に良い政策を実施できればよいのですが、景気不安がくすぶる中で、決められない政治がさらに景気に下押し圧力をかけてしまう恐れもあります。

 

次に、地政学リスクが挙げられました。地政学リスクは常に存在し、先行きはいつも不透明ですが、2024年は特に、そうした状況のまま年末を迎えました。ロシアのウクライナ侵攻後、停戦が見えない中で、トランプ次期大統領の就任が迫っています。停戦合意は簡単ではないものの、停戦交渉を優位に進めるべく、双方ともに攻勢に出ている部分もあり、予断を許さない状況です。また、中東情勢も、落ち着きどころを探っている中で、イスラエルとレバノンは停戦合意に至りました。その一方で、シリアではアサド政権が崩壊するなど、中東地域では次のリスクの火種も見られています。

 

また、西側諸国内部の結束やその秩序に対する挑戦も、2024年には目立ちました。欧州では、フランスやドイツの政治不安の一方で、欧州内の結束が希薄化しつつあります。6月の欧州議会選後、右派勢力の台頭が目立ち、欧州委員会は右派勢力との協力も模索しています。実際、メローニ伊首相らとは、ギブ・アンド・テイクの関係で政策を進める方針です。また、親ロシア的な姿勢を示してきたハンガリーやスロバキアは、トランプ氏との関係を強化しています。欧州主要国は、トランプ第1期政権との関係が良好とはいえなかった中で、第2期では関係改善が進むとはいい切れません。多様な意見を吸収して、よりよい世界を構築できるのか、それとも分断してさらに収集がつかなくなるのか、その分かれ目にあるようにも見えます。

 

こうした中、欧米主導とは異なる「枠組み」の存在感も大きくなっています。例えば、BRICSは拡大しており、2024年の首脳会合には加盟9か国とその他27か国が参加しました。もちろん、強力な結びつきというよりも、「利益があれば」という条件付きの様相があり、欧米主導とその他主導の枠組みのいいとこ取りを狙っているともいえます。しかし、意見表明などを含めて存在感が大きくなっていることは事実です。欧米とは異なるビジネスルールとなったり、供給網を区別したりする必要性がこれまで以上に大きくなる可能性もあるため、こうした動きも注目されます。

 

2024年の経済面では、物価上昇率が縮小し、経済成長率も鈍化したことが、特徴として指摘できます。主要国では、それらを踏まえて、これまで利下げが実施されてきました。しかし、局面は変わりつつあり、米国は金利据え置きを模索しています。2025年も引き続き、低成長が続くと予想されている中で、政治体制が大きく変わるため、経済が以前と同様の成長経路をたどれるという保証はありません。

 

実際、米国経済の先行きも不透明です。トランプ次期大統領は関税率の引き上げを主張しています。追加関税として中国に60%、カナダとメキシコに25%、そのほかの国に10~20%といわれています。関税引き上げによって輸入物価が上昇するため、インフレ誘発的な環境になります。しかし、そうなれば、物価抑制のために高金利政策がとられる結果、ドル高となり、輸入物価の上昇には一定の歯止めがかかります。また、企業は当然、代替調達などの工夫をする上、消費者が値上げに敏感になっている中では容易に価格転嫁できないという事情もあります。そのため、関税率引き上げは、インフレ誘発的な政策であるものの、実際のインフレ効果は限定的となる可能性もあります。トランプ氏が勝利できた一因には、経済の問題があっため、インフレ誘発的な政策をそのまま実施するかは不透明です。トランプ氏のみぞ知る、という状況でもあります。

 

また、中国経済の成長ペースの減速も気がかりです。足元の前年同月比の経済成長率は5%割れとなった中で、純輸出の寄与度が高まっています。これは、輸出が経済成長をけん引しているというよりも、内需が弱いため、値下げ販売で輸出を伸ばしていることを表しています。すでに、デフレの輸出として、南米諸国をはじめとして、取引相手国には警戒感が高まっています。また、不動産開発投資が減少する中、成長を下支えするために、国営企業の投資やインフラ投資も増加してきました。こうした状況で、内需の成長は鈍いままです。その一方で、海外投資家は、中国から資金を引き揚げる動きを見せています。実際、中国の対内直接投資は大幅に減速し、むしろ投資よりも引き揚げる金額の方が多い時期も見られています。中国経済の高成長から低成長への転換、それに伴う資金フローの変化などへの対応が欠かせなくなっています。

 

以上を踏まえた上で、2025年の世界はどのように推移するのかを考えることになります。その上、ESGやAIなど考えるべき論点は多くあります。現在の延長線上で進むこともあれば、大きく転換することもあります。ある程度見通しを立てた上で、その時に、自分がどのように行動するのかを考えることが重要になります。言い換えると、これらの政治・経済情勢から、自分の置かれた環境やビジネスに話を結びつけるために補助線を引くことです。他人の話は参考になりますが、日ごろの業務の中で自ら考えていく中で、その補助線を引く力を磨いていきたいです。

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