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【#13】難解な例え話


MIRAL LAB PALETTE × SCGR企画 SC Kaleidoscopeでの様子


経済部 シニアエコノミスト


分かりやすくするために、例え話をしたら、余計に分からなくなった。誰しもそのような経験があると思いますが、金融政策を決めた後の記者会見でも、たまに面白い(よく分からない)やり取りがあります。例えば、以下は、欧州中央銀行(ECB)ラガルド総裁の記者会見での回答です。

 

①    2019年12月12日の記者会見  Monetary policy statement (with Q&A)


"But once and for all, I'm neither dove nor hawk and my ambition is to be this owl that is often associated with a little bit of wisdom."


「はっきり申し上げておきたいが、私はハト派でもタカ派でもない。

私の夢は知恵の象徴であるフクロウ派になることだ」

 

就任早々のラガルドECB総裁に対する記者の質問で、景気が悪くなった場合に、マイナス金利と量的緩和(QE)のいずれを使うのか、また、前任者(ドラギ前総裁)は、理事会内で意見の相違があるときに、各国中銀(ECBメンバー)が公に異議を唱えることがECBの決定に有害になりうると懸念していたけれども、それを共有しているのか、というものがありました。


それに対して、ラガルド総裁は「ハト派でもタカ派でもありません。私の夢は、しばしばちょっとした知恵を連想させるこのフクロウになることです」と回答しました。これは、自身の主張が、金融緩和を重視するハト派でも、金融引き締めを重視するタカ派でもないことを表しています。ユーロ圏では、南側の国の中銀総裁はハト派的、北側の国の中銀総裁はタカ派的である傾向が見られます。そうした中で、ラガルド総裁は理事会内で合意に達するように議論する方針を示したといえます。


それに続けて「長く、深く、誠意をもって議論すれば、最終的にいくつかの決定にたどり着き、それこそ中銀の意思決定だ」と(いう旨を)発言しています。当時のユーロ圏には19か国あり、1人が1分話したら、あっという間に30分が経ってしまう状態でした(今のユーロ圏は20か国なので当時よりも議論が長くなるはず)。また、ユーロ圏域内国といっても、経済成長率や物価上昇率、失業率などが国によって大きく異なっています。景気が良い国にはあまり問題にならなくても、意思決定が必要となる転換点では、大きな問題になり得ます。例えば、同じ2%の政策金利といっても、それが高すぎる経済状態の国や、反対に低すぎる経済状態の国があり、最適な金融政策は異なります。しかし、ユーロ圏域内では共通の金利になるので、転換点ほど決断が難しくなります。そのため、議論を尽くして、合意を得ることが必要だということです。


もちろん、危機の真っ最中で決断力が問われる場面では、異論がECB外に漏れるほどの決定を下すドラギ前総裁のような姿勢を取らざるを得ないという一面があることも事実なので、時と場合によるといえます。しかし、ラガルド総裁が引き継いだ時点では、議論を尽くし合意に到達することが重要な局面になっていました。

 


②    2021年9月9日の記者会見 Monetary policy statement (with Q&A)


"We’re not out of the woods. We are not on the green, as the golf players will appreciate."


「われわれはまだ危機を脱していない。ゴルフをする人ならわかるように、

グリーンにはいないということだ」

 

記者から、財政政策について、コロナ禍直後に比べて財政健全化に集中すべきか、それとも不確かな局面では経済支援に集中すべきかと問われたラガルド総裁は、ユーロ圏の認識について、「ゴルフをする人ならわかるように、グリーンにはいないということだ」と答えました。経済活動が緩やかに回復する中で、コロナ禍直後に経済を下支えしてきたような全面的な財政政策はもはや必要ないけれど、財政支出を引き締めてしまうのはまだ早いと指摘し、的を絞った形での支援策に移行していく段階という認識を示しました。経済は回復しつつあるけれども、まだ回復したとか、コロナ禍の危機から脱却したとかは言えない状況を、「グリーンの上にいない」と表現しています。


経済の回復には、財政政策とともに金融政策も関係しており、これを続けていかなければならないと主張しました。財政政策はECBの管轄外なのですが、金融政策がともに経済を支えているという視点で語られています。未曾有の危機だったコロナ禍からの回復過程では、慎重に進める必要がありました。また、その後を考えると、コロナ禍で積み上がった債務の返済も必要になります。EUでは、財政赤字GDP比を3%以下に、債務残高GDP比を60%以内に抑える協定(コロナ禍では停止されていました)があったので、金利高が債務負担の増加を意味するという一面も、頭をよぎったと思います。

 


③    2024年9月12日の記者会見 Monetary policy statement (with Q&A)


"I am tempted to quote the Spanish Que sera sera because we have consistently said, and we repeat again, that we shall remain data-dependent."


「スペインのケセラセラ、を引用したい。われわれはデータ依存だということを一貫して

言ってきたし、これからもデータ依存であり続けると繰り返し表明しますから」

 

記者から、市場が年末までにもう1回0.5%利下げがあると予想するのは正しいか、と聞かれました。その回答の中で、ラガルド総裁は「ケセラセラを引用したい」と話しました。これは、金融政策の決定が、データ依存になっていることを示しています。つまり、経済・物価情勢をデータで確認して、それに基づいて会合ごとに、適切な政策を実施する姿勢を、これまでも、これからも維持していくことを意味しています。その姿勢をとる理由として、不確実性が高い中では、データ依存のアプローチが正当化されると説明しています。もちろん、政策金利が引き下げられる方向にあることは明らかであるけれども、利下げの回数や利下げ幅など、事前に決まったものはないと改めて表明しました。

 

声明文で、「特に政策金利は、入手する経済・金融データに基づく物価見通し、基調的な物価動向、金融政策の伝達力の評価に基づいて決定される」と、記載されています。データ依存の意味は、データに基づいて作成された物価見通しで、2%目標の達成が予想されているのか、ということです。実際、ラガルド総裁は記者会見で、上記の3つの条件(プリズム)に照らして、9月理事会で0.5%ではなく、0.25%の利下げが適切だと判断したと説明しました。

 

このように、例え話なのに、その真意がよく考えないと分かりがたい場面も少なくありませんが、その言葉が何を意味するのかを考えることも、金融政策とともに経済動向を理解する上で重要になります。

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