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【#3】貿易・経常収支から見る日本企業の海外で稼ぐ力の変化

経済部 シニアエコノミスト


コモディティ市場との20年。経済部シニアアナリスト鈴木直美


この20年を振り返ると、大きく変化してきたものに、日本企業の海外での稼ぎ方が挙げられます。『国際収支統計』(財務省)によると、約20年前の2005年に、第一次所得収支の受取超(黒字)が貿易収支の黒字を上回りました。日本経済は、いわゆる「貿易立国」から「投資立国」へと変化しました。


2011年に赤字に転じた貿易収支は2016年にようやく黒字を回復したものの、2022年から再び赤字に転じるなど、不安定化しました。その一方で、投資立国という位置づけは維持されてきました。第一次所得収支の黒字額は安定しており、2005年の約11.9兆円から2015年に20兆円を超え、2022年には35.0兆円と過去最高を更新しました。


日本企業は海外で稼ぐ上で、国内生産財を輸出する体制から、投資先の海外で生産・販売活動を行う体制への比重を移してきました。単純な生産拠点の海外移管ではなく、国内で中間財や資本財を生産して輸出する一方、完成品を輸入したり、反対に海外で生産した中間財を輸入して完成品を国内外に供給したりするなど、国内外で供給網を張り巡らせてきたといえます。その結果、物価上昇や為替相場の影響を受けながらも、2023年の輸出額は2005年の約1.6倍へ拡大しています。


海外投資は結果的に、企業の収益獲得経路を複線化させました。例えば、海外子会社からのロイヤルティー収入が増えたため、知的財産権等使用料は2003年に黒字に転じ、その後も黒字を維持しています。海外子会社の配当金などは、第一次所得収支の受取として回収されます。日本企業は、財やサービス、投資収益によって複線的に収益を挙げる構図になってきました。


ただし、海外で複線化を進める一方で、国内では空洞化が懸念されました。実際に生産拠点が海外に移転して、生産拠点がなくなった地域では雇用機会の喪失など影響が大きかったといえます。その半面で、国内外の生産・販売拠点を統括する拠点が拡充されました。そのため、国内空洞化はまだら模様でした。また、失われた雇用と創出された雇用で、職種や技能などが異なる場合もあり、必ずしも円滑な労働力の移動が行われず、結果的に痛みとなったことも否めません。


また、海外で稼ぐ上で、貿易立国と投資立国では、所得の波及経路も異なっていることには注意が必要です。前者では、輸出財の生産過程や物流過程で、雇用や所得が生じます。後者では、国内外の生産・販売の統括の場で雇用や所得が、海外投資の配当金などで投資収益が生まれます。投資収益は、設備投資に回されたり、株主などに配当されたりするため、家計への恩恵という点では、投資立国の経路の方が細くて長くなる傾向があり、恩恵を感じにくいといえます。


こうした中、国内企業のサービス輸出が、その懸念材料を補いつつあります。顕著な例は、訪日観光客の増加によって、旅行収支は2015年に黒字に転じ、その後も黒字を維持していることです。サービスは生産・消費の時間が一致する傾向が強く、家計に直接的な恩恵が波及しやすいといえます。また、首都圏とともに地方の観光地で、雇用や所得が創出されやすいこともあります。


しかし、それに伴い、課題も出ています。旅行関連では、国内の人手不足が供給制約となって、需要の取りこぼしていることが懸念されます。省力化・合理化投資によって、課題に対処したいものの、かえってデジタル関連赤字を拡大させる副作用も懸念されています。


課題があるということは、それを乗り越えることで、さらに成長できる余地があるということです。例えば、省力化・合理化やデジタル化などを内製化するなどの対応も欠かせません。地政学的なリスクが高まる中で、半導体関連の生産技術の確保、データセンターの国内確保など、経済安全保障などこれまで以上に注意しなければならないこともあげられます。その意味で、日本経済の重要性はここ20年でも最も高まっているともいえます。このように、財やサービス、投資収益と海外で稼ぐ力が複線化した中で、日本企業にとって令和版の海外で稼ぐ力に変えていくことが必要不可欠になっています。



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